海外研修の仕事を手がけた私が次に興味を持ったのが、「海外研修以外の学習コンテンツを扱うこと」でした。そこでまたしても転職の道を選び、女性向けのカルチャースクール事業を運営する会社に就職しました。
ここでの仕事は、スクールのコンテンツ企画でした。スクールの利用者を増やすため、ターゲットが興味を持ちそうなコンテンツをリサーチし、セミナーとして企画。講師の先生をキャスティングして、先生と二人三脚でプログラムやカリキュラムを作って、告知・集客・運営をする仕事です。
なかでも私にとって大きな挑戦となったのが、通信講座の企画・制作でした。
そう! ついに私の原体験である通信講座を制作する機会に巡り会えたのです。
というのも、このスクールでは当時、集客実績がよく「ニーズが高い」と判断されたセミナーのコンテンツについては、「通信講座化していく」という取り組みをしていたのでした。
編集プロダクションでの書籍編集とライター経験、英語学校での研修企画と運営経験。そして、小さい頃に『進研ゼミ』と『学研の学習』を楽しみ尽くしていた経験のすべてがつながり、ひとつに束ねられて、目の前にそっと差し出されたようなチャンスでした。
通信講座の洗礼
通信講座大好き!だった私ですが、当然、その制作運営の内側を見るのは初めてでした。編集プロダクションにいたとき、語学書などの教材も作っていたので、「何かを学ぶための冊子をつくる」という経験はあったものの、通信講座に関しては思い及ばないことがたくさんありました。
たとえば、講座の「修了率」という視点です。
編集プロダクション時代に作っていた書籍は、お客様が買ってくれたとしても、その人が読むか読まないかは預かり知らないところです。
また、前職で扱っていた対面(通学型)での講座や研修、特に長期におよぶ連続講座では、「途中で来なくなる参加者」はゼロではないもののたまーにいる程度で、「講座は受講したら修了するもの」が大前提でした。
それと比較すると、通信講座は修了率が低いのです。通信講座をやったことのある方なら想像できると思いますが、受講したものの「修了しない人」「途中で挫折してしまう人」が一定数います。実際に通信講座好きの私でも、なんとなく興味がなくなったり飽きてしまって、途中でやめてしまった講座はいくつかあります。
これがまさに通信講座を企画・制作する難しさでした。受講生が修了しても修了しなくても売上自体は変わらないのですが、無視することはできない重要課題です。
これは、今まで手がけてきた一般的な書籍制作とは勝手が違うぞ…とハラハラしました。
シミュレーションと思いやりを尽くす
しかも、通信講座は「テキストさえあれば良い」というものではありません。講座のジャンルや内容によっても異なりますが、テキストのほかにも、いろいろな付録が必要です。学び方ガイドブック、ワークブック、添削課題、添削課題の返信用封筒、質問用紙、住所変更届…などなど。DVDや何かを作るキットが付いているような講座もあります。
さらに、それ以外にも考えなければならないことは多く、たとえば「何に入れて送るか?」(→箱のパッケージデザイン)、「これでは発送中に付録が壊れてしまうかも?」(→梱包材を手配して、ユサユサ揺らして破損するかしないか実験)、「これで送ると送料が倍になってしまうかも?」(→受講料の試算表に反映)など…。
実に細かい点に至るまで想像力をフル稼働させて、「どんな教材が、どんなかたちで届いたら、受講生はストレスなく挫折することなく最後まで楽しく学べるか」を考える毎日なのでした。
自宅などの日常空間で、一緒に学ぶ仲間もおらず、先生やスタッフとも一度も顔を合わせずに勉強する…。そんな通信講座特有の条件のもと、「受講生にどう自己学習を進めてもらえるか?」や「学ぶモチベーションをどう維持してもらうか?」に配慮を行き届かせ、緻密に設計して完結させる必要があるもの。それが通信講座でした。
これを知ったとき、改めて、海外で受講していた通信講座の出来の素晴らしさに、感銘を受けました。
「こんなにもシミュレーションし尽くされて、思いやりや心くばりが凝縮されていた教材だったから、私はあれだけ教材に心を掴まれていたんだ!」と。
教材それ自体が講座の価値
その細やかな配慮や思いやりは、前職の海外研修でつくっていた「待ち伏せ資料」にも通じるところがありました。ところが、根本的に違うのが、「教材自体が売り物、商品である」という点です。
つまり、講座の受講料はそのまま「その教材の価値」と比較されることになるので、たとえば、数万円という受講料を払ってもらっているのに、それに見合わない「チープな教材」や「見た目の美しくない教材」はありえないのです。「講座のコンテンツが良い」だけでは不十分で、教材の充実度や完成度こそが講座満足度を左右する大きな要素でした。
しかも、高額の講座であればあるほど、その教材は修了後も捨てられることなく、その後長きに渡って受講生の手元に保管され続ける傾向があります。講座が終われば、おそらく捨てられてしまうワードやエクセルでつくった研修資料とはわけがちがうのでした。
そんなクオリティの講座を、制作予算内でどうやりくりしてつくるか?
私にとって、大きなチャレンジだったことは言うまでもありません。
そんな生みの苦しみを経て世に放たれた通信講座は、監修の先生や営業の皆さんの尽力もあり、多くの受講生にご好評いただける講座になりました。
地方に住む受講生からの問い合わせを受けたり、添削課題が入った封筒の束を見ては、小さい頃に自分が味わった楽しさやワクワク感と重ね合わせて、自然と笑みが溢れてくるのでした。
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