こんにちは! 「教材の力」で人材育成の課題を解決する教材戦略ラボの矢澤です。
私は普段、教育サービスを展開される事業者様向けに、教育プログラム(講座や研修)の構築、メソッドの体系化、カリキュラム設計、テキスト・ワークブック・マニュアル等の制作のお手伝いをしています。
今日のコラムのテーマはこちら。
受講生に絶望感を与えない
先日、組織内の人材育成に取り組むクライアントさん(社長さん)から、こんな主旨のご相談がありました。
「スタッフに覚えてほしいことをまとめたリストがあって、だいぶ前にプリントで配布した。
でもおそらく誰もちゃんと読んでいないし、覚えている様子も見られない。
ついては、来月から始まる新年度に向けて改めて定着させたいので、
来週、スタッフ向けにテストを実施したい。
覚えてほしいことリストの元原稿を送るので、
どういう形のテストにしたら良いかアドバイスをもらえませんか?」
受け取った元原稿は、A4用紙で10ページ超。
全部で4つのカテゴリーがあり、それに紐づく項目がざっと数えたところ200個ほどありました!
社長さんの要望は
- このリストをスタッフに覚えさせたい
- 来週テストをしたい
の2つ。
さて、どうしたものか。
教材設計の専門家として腕が鳴るご相談です。笑
このコラムでは、私がこのケースに対して「何を考え、どんな提案をしたか?」を、順を追って紹介したいと思います。
教育プログラムや教材作りをされる方は、ぜひ参考にしてみてください。
このケースでの「絶対NG」は何か?
まずはこのケースにおける「やってはいけないことは何か?」から考えたいと思います。
それは「スタッフの皆さんを奈落の底に突き落すこと」!苦笑
少し言葉を補足しながら解説していきます。
まず。
今回社長さんがやろうとしていること(=意図)を、社長さん目線でもう少し平たく紐解くと、おそらくこんな感じであろうことが想像できます。
- (業務パフォーマンス向上のために)来月始まる新年度までに、リストのすべてをスタッフに覚えさせたい。
- でもおそらく現時点ではまったく覚えていない・覚えようとしていないように見受けられる。
- だからテストを実施して、スタッフ一人ひとりに「自分がまったくわかっていない・覚えていないこと」を認識させて、「覚えなきゃ」という方向に促したい。
- 覚えるべき200項目を「テスト問題形式」にする(例:穴埋め問題、選択問題、記述問題…など)
- スタッフ一人ひとりが自分の現在地を把握できるように、配点を考え、「100点満点中○点か」がわかるようにする
- 採点&復習用に「各問題の答え」と「解説」を作る
- こうして準備したテストを、スタッフに対して実施する
考え方①:初級編「優先順位をつける」
このクライアントさんに対して、私が最初に確認・提案したのはこんなことでした。
「200個を一気に提示したら、スタッフの皆さんは焦って、
逆効果(パフォーマンスダウン)になってしまうと思います。
『来月の新年度まで』という限られた時間を考えると、
優先順位をつけて、今回は優先順位の一番高いカテゴリーや項目だけにしませんか?」
我ながら至極真っ当な提案だと思います。笑
ところが、これに対する社長の回答はというと…
「そうですよね。でも全部大事なんですよね…。どうやって優先順位をつけたら良いんだろう…」
というものでした。
これは無責任なことでもなんでもなく、教育を提供する当事者の方々が抱えがちな課題だったりします。
(=自分が提供しているコンテンツだからこそ客観的目線で捉えることができない…という課題)
そこで、こんなカテゴリー分けをして優先順位をつける案を考えました。
200個の項目を…
- A:知識として知れば、すぐに活用・応用できるもの
- B:覚えれば(暗記すれば)、活用・応用できるもの
- C:じっくり時間をかけて習得・実践が必要なもの
の3つのカテゴリーに分けて、今回のテストでは「A」だけを扱う
こんな場合は、社長にどなたか社員の方をアサインしてもらい、社内でA/B/Cの仕分け作業をしてもらうことにします。
ただ、今回はその時間的・人員的余裕もない…ということで、このやり方は却下することに。
というわけで「優先順位をつける方法…ではないやり方」を考える必要が出てきました。
さあ、どうしましょうか。笑
考え方②:応用編「ゴールに対して方法論を考え直す」
こうなったら、大元から見方や解釈を変える必要があります。
そこで、このような4つの問いを立てて考え直してみました。
- 「そもそも、この会社さんが目指していることはなんだっけ?」
- 「そもそも、それって『テスト』じゃないとダメなんだっけ?」
- 「そもそも、『スタッフはみんな全然覚えていない』は本当なのか?」
- 「そもそも、『やばい! 覚えなきゃ!』と感じさせる方法は正解なのか?」
私の好きな「そもそも議論」です。笑
これらの問いに対しては、こんなふうに考えました。
・・・
1. 「そもそも、この会社さんが目指していることはなんだっけ?」
スタッフ一人ひとりが200項目を理解・実践できるようになることで
業務に対するさらなる興味を深めながら、自信をもって仕事ができるようになること。
その結果、業務パフォーマンス(+組織としての業績や生産性)が上がること。
2. 「そもそも、それって『テスト』じゃないとダメなんだっけ?」
「テスト」は1つの手段ではあるが、唯一の方法ではない。
1)のゴールが達成できれば、別の方法でも良いのでは?
よし、「テスト」じゃない形にしよう。
3. 「そもそも、『スタッフはみんな全然覚えていない』は本当なのか?」
社長の言葉を鵜呑みにしてはいけない。笑
「全然覚えていない人」もいれば、中には「実は結構覚えている人」もいるのでは?
要は一人ひとり状況が違うはず。
4. 「そもそも、『やばい! 覚えなきゃ!』と感じさせる方法は正解なのか?」
このやり方では、スタッフのモチベーションが下がってしまう。
ならば発想の転換をして、「何この200項目! すごく便利で役立つじゃん!」と
感じさせる方法にしたほうが良いのでは?
・・・
このように
- 「クライアントさんの要望」を捉え直して
- 「前提や目的」を整理して
- 「方法論や手法」を再設計する
のが、私の仕事です^^
最終的にどうなったか?
そんな「ああでもない、こうでもない」という脳内試行錯誤を経ること数日。
社長さんには「来週スタッフ向けにやること」として以下のような提案を行い、実行してもらいました。
・・・
「モノ」としての形式
「テスト用紙」ではなく、「パフォーマンスUPのためのチェックリスト200」という形に。
「モノ」としての役割
「来月の新年度までに覚えることリスト」ではなく、「この仕事でキャリアアップしていくために覚えると良いことリスト」として提示。
「1回見て終わり」ではなく、「各自、いつでも閲覧できる状態で保管すること」を推奨。
「学習」の促し方
「全部を覚える」ではなく、「この仕事を続けていく中で『1つでも多くの項目を自分のものにする』」という目線で、定期的にチェックすることを推奨。
「モノ」としての使い方
チェックリストについては、以下の使い方(ディレクション)を提示。
- 「自分のものになっている」と判断する項目には、各自でチェックマークを入れていく。
- 「直近の目標・目的」がある場合は、各自で「それまでに覚えたい・マスターしたい項目」を5〜10個程度ピックアップし(欲張りすぎは厳禁!)、意識的に取り組むようにする。
・・・
いかがでしょう?
当初のイメージとは、だいぶ違うところに着地しました。笑
「覚えてほしいことリスト」というプリント(書類)が、「教育プログラム&教材」に昇華した瞬間です。
本質的な教育プログラム作りとは
ここまで読んでくださった方(あるいは、過去のコラムを読んでくださっている方)は、すでになんとなく理解されていると思いますが、人がちゃんと育つ「本質的な教育プログラム」作りにおいては、以下の3つの視点を丁寧に取り扱う必要があります。
- 《ゴール》最終的に何を実現しようとしているのか?
- 《方法》そのゴールに対して、どんな手段・方法が考えられるのか?
- 《受講生目線》その手段・方法は、はたして受講生に馴染むのか?
1)と2)については、これまでのコラムでも幾度となく触れてきましたが、「3)受講生目線」も欠かせない要素。
今日のテーマ「受講生を奈落の底に突き落とさない」ためのもっとも重要な目線です。
ぜひ参考にしてみてください。
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